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【症例紹介-膣の平滑筋腫】

2021年6月3日

 
今回の症例は、
1週間尿漏れが続くとのことで来院されました
15歳の未避妊の女の子のわんちゃんです。



身体検査では、
会陰部(肛門と陰唇の間)に膨らみが見られ(写真1)、
この膨らみを腹側(下側)に押すと
陰唇の間に腫瘤病変が現れました(写真2)。
陰唇の間に指を入れて触ると、
腫瘤は膣壁から茎状に存在していることが分かりました。


腫瘤の細胞診を行いましたが、
診断に役立つ細胞は認められませんでした。

写真1 大きく膨らんだ会陰部



写真2 膣腫瘤



尿漏れの原因は、
排出された尿が膣の腫瘤によって、
膣の中で一時的にせき止められ、
途切れ途切れに垂れてくることによるものと考えられました。


腫瘤が膣に茎状についていること、
未避妊であること、
細胞診の結果から
膣腫瘤はホルモン関連の良性腫瘍が第一に考えられた為、
膣の腫瘤切除と同時に
卵巣子宮摘出術(避妊手術)を行うこととなりました。


まず卵巣子宮摘出術を行いました。
卵巣と子宮に明らかな異常は見られませんでした。


次に、会陰部へのアプローチを行いました。
会陰切開を行ったところ、
この腫瘤は膣前庭の左側背側から茎状に存在していました
(写真3、4)。

写真3 会陰切開した際の外観



写真4 膣腫瘤を挙上した際の外観 



尿道カテーテルを外尿道口から挿入して尿道を確認しました。
腫瘤の根元と尿道が近い場合や尿道に腫瘤が浸潤している場合、
腫瘤を切除することで尿道の一部が失われるため、
残された尿道を他の場所に開口させる手術が必要となります。


しかし、
今回この腫瘤が尿道に干渉していないことが確認できたため、
腫瘤の根元を吸収糸で結紮し、
腫瘤を切除しました(写真5、6)。
そして縫合を行って手術を終了しました(写真7)。

写真5 膣腫瘤と外尿道口の位置関係



写真6 摘出した膣腫瘤



写真7 縫合後の外観



病理検査の結果、
切除した腫瘤は「膣平滑筋腫」でした。


膣平滑筋腫は良性の腫瘍で、
未避妊の雌犬でよく認められます。
この腫瘍の発生には
卵巣ホルモンの影響が関与していると考えられており、
2歳以前に避妊手術をうけた犬は
膣平滑筋腫が認められなかったとの報告があります。
そのため、膣の腫瘍の切除と同時に
避妊手術をすることが最も良い治療と考えられています。


このわんちゃんは術後すぐに尿漏れがなくなり、
元気に過ごしています。


子宮蓄膿症、乳腺腫瘍、卵巣腫瘍、子宮・膣の腫瘍、
膣脱、偽妊娠など、
性ホルモンが関わると考えられている病気は
適切な時期に避妊手術(卵巣子宮摘出術)を行うことで
その発生を100%あるいはそれに近い確率で
予防することができます。
これらの《予防できる病気》で亡くならないことが、
ペットが長生きでいられる可能性を高めてくれるのです。


しかし、乳腺腫瘍に関しては、
初回の発情(生後7~12か月頃)が来るまでに避妊手術を行えば、
腫瘍の発生をほぼ0%に抑えることができますが、
その後発情が来るたびに、
避妊手術による腫瘍発生を予防する効果は
どんどん薄れていくことが分かっています。


そのため、当院では繁殖の予定がない場合は、
はじめての発情が来る前(生後6か月頃)に
避妊手術を受けて頂くことを推奨しております。
 
 
 
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