はじめに 尿管閉塞は結石等により尿の流れが尿管で妨げられることで 腎臓の内圧が上昇し、腎臓の機能が徐々にあるいは 急激に失われていく病気です(下記の図1参照)。 犬猫ともにみられますが、特に高齢の猫に発生の多い尿管閉塞。 当院で実際に行った診断、治療等について写真を交えて解説します (手術中の写真も含みます)。 患者:12歳 雑種オス猫 主訴:食欲不振(以前の7割程度)が1か月以上程続いており、 原因を精査するために来院しました。 検査:身体検査、レントゲン検査、エコー検査、 血液検査を実施しました。身体検査で8%程度の体重の減少、 レントゲン検査では尿管結石が疑われる所見(写真1)、 エコー検査では左の尿管に1.2㎜ほどの結石と 腎盂と閉塞部位より腎臓側の尿管に拡張(写真2)、 血液検査では腎機能を反映するBUNとCREの上昇、 尿検査では白血球と円柱が確認されました。 写真1 尿管結石のレントゲン画像 写真2 拡張した腎盂と尿管のエコー画像 診断:図1で示したように、 左の腎臓から膀胱への尿の流れが結石によって妨げられる、 左側尿管閉塞と考えられました。 (実際の結石は1.2mmほどですが、図の結石は分かりやすく 大きく示しています)。 図1 尿管閉塞と拡張尿管 赤の点線は尿の流れを示す。 治療:全身麻酔下で開腹し、左側尿管の閉塞部位を切開して 目視したところ、結石によるダメージのせいか 尿管の壁は線維化が生じて狭くなっており、 尿はこの閉塞部位から膀胱へ流れない状態となっていた。 この尿管を膀胱から切断し(写真3)、 閉塞部位より腎臓側の太い尿管を膀胱と吻合した (つなぎ直した)(写真4)。 写真3 拡張尿管の切断 写真4 吻合後の尿管と膀胱 その際、術後の尿管の再閉塞を防止するために、 体表→膀胱→左側尿管→左腎とつながる尿管ステントを 設置した(写真5)。 尿管ステントは術後10日で取り外し、退院としました。 図5 尿管ステントの設置 早期発見には定期的な尿検査と画像診断を 尿管閉塞は片側の場合は症状が全くない、あるいは今回のように わずかな食欲不振など軽い症状しか示さないことが多いです。 対して、重い症状や血液検査で異常値を示す際には、 閉塞が生じてから時間が経過していることが多いです。 早期に発見するには、わずかな食事の量や体重の減少に気付く事、 定期的に尿検査やレントゲン・エコーといった画像診断を行って 結石や閉塞を見つけることが大切です。 結石(特にシュウ酸カルシウム)が尿管閉塞をおこすきっかけと なりますので、これが尿検査や画像診断でみつかったことがある 動物は特に注意が必要です。
【尿管閉塞と尿管結石について】
2020年6月3日